開発版ドキュメント · 0.2.7 12b76261 · 入門例の検証対象 0.2.4 · 版情報 · 既知の制限

物理モデルと解析理論#

gwexpy に実装されている、特定の物理現象やハードウェア応答を扱うための高度なモデルについて解説します。

応答関数と結合関数 (Response & Coupling)#

励起セグメントの自動検出#

インジェクション(スウェプトサインやステップサインなど)を含むデータから、解析に有効な安定区間を自動的に抽出します。スペクトログラム上で特定の周波数バンドのパワーを追跡し、閾値を超えたセグメントを抽出することで、手動での時刻指定を不要にします。

結合関数 (:term:Coupling Function; CF)#

バックグラウンドノイズを考慮した結合関数の推定を行います。 ターゲット信号と参照信号(ウィットネス信号)の両方について、インジェクション時とバックグラウンド時のパワーを比較することで、真の結合度を推定します。

\[ \text{CF}(f) = \sqrt{\frac{P_{\text{tgt,inj}}(f) - P_{\text{tgt,bkg}}(f)}{P_{\text{wit,inj}}(f) - P_{\text{wit,bkg}}(f)}} \]

変数

定義

物理的意味

\(f\)

周波数

解析対象の周波数点

\(P_{\text{tgt,inj}}(f)\)

ターゲット信号パワー(インジェクション時)

加振中のメイン信号のパワー分布

\(P_{\text{tgt,bkg}}(f)\)

ターゲット信号パワー(バックグラウンド時)

無加振時のメイン信号のノイズフロア

\(P_{\text{wit,inj}}(f)\)

ウィットネス信号パワー(インジェクション時)

加振中の参照信号(環境ノイズ源等)のパワー

\(P_{\text{wit,bkg}}(f)\)

ウィットネス信号パワー(バックグラウンド時)

無加振時の参照信号のノイズフロア

  • 関連 API: Analysis (gwexpy.analysis.coupling.estimate_coupling)


コヒーレンス (:term:Coherence)#

TimeSeries.coherence()、TimeSeriesDict.coherence()、および BruCo エンジンの FastCoherenceEngine.compute_coherence() は、scipy.signal.coherence や gwpy と同じ慣習に従い、二乗コヒーレンス(magnitude-squared coherence)\(\gamma^2(f)\) を返します:

\[ \gamma^2(f) = \frac{|S_{xy}(f)|^2}{S_{xx}(f)\, S_{yy}(f)} \]

変数

定義

\(S_{xy}(f)\)

\(x\) と \(y\) のクロススペクトル密度

\(S_{xx}(f)\), \(S_{yy}(f)\)

\(x\) と \(y\) のパワースペクトル密度

\(\gamma^2\) は \([0, 1]\) の範囲に収まります。1 に近い値は、その周波数における 2 チャンネル間の強い線形関係を示し、0 に近い値は線形な関係がないこと(あるいは測定がノイズに支配されていること)を示します。

本ドキュメント全体で、特に明示しない限り「Coherence(コヒーレンス)」は \(\gamma^2\) を指します。 ページによって振幅比(例えばノイズプロジェクションのように ASD をコヒーレントな割合でスケールする場合)が必要な場合は、\(\sqrt{\gamma^2}\) を明示的に使用し、その旨をラベルに記載します(例:「Coherence Amplitude」)。


組み込みノイズモデル#

シミュレーションやフィッティングの初期モデルとして利用可能な、物理的に裏付けられたノイズジェネレーターを提供しています。

1. Schumann Resonance (:term:Schumann Resonance)#

地球-電離層空洞の共振モードに対応する地磁気ノイズをモデル化します。 複数の独立したローレンツプロファイル(Lorentzian)を重畳することで、低周波領域の磁場バックグラウンドを再現します。

  • 関連 API: Noise (gwexpy.noise.magnetic.schumann_resonance)

2. Voigt Profile#

原子物理学や高 Q 値のメカニカル共振で見られる、ガウシアン(ドップラー広がり等)とローレンツィアン(衝突広がり・自然広がり等)が組み合わさったピーク形状を生成します。内部では Faddeeva 関数を用いて効率的かつ正確に計算されます。

  • 関連 API: Noise (gwexpy.noise.peaks.voigt_line)


高度な解析エンジンとアルゴリズム#

1. Independent and Principal Component Analysis (ICA/PCA)#

gwexpy の ICA/PCA 実装は、物理データのワークフローを想定した前処理とメタデータの扱いを提供します。

  • 単位分散標準化: アルゴリズムの収束性を高めるため、内部でデータを単位分散に標準化し、演算後に元の物理スケールを復元(再スケーリング)します。

  • 時空メタデータの継承: 統計的に抽出された各成分に対し、入力データが保持していた GPS 時刻規約を自動的に継承させます。

  • 関連 API: Signal Processing (ICA, PCA)

2. Fast Correlation Engine (:term:Bruco)#

FastCoherenceEngine は、ターゲット信号に対する補助チャネルのコヒーレンスをバッチで走査できます。

  • FFT キャッシング: 共通のターゲット信号に対する FFT 計算結果をメモリ内で再利用。

  • 疎行列演算: 相関のないチャネルを早期にスキップし、計算リソースを重要チャネルに集中させます。

  • 関連 API: Analysis (gwexpy.analysis.bruco.FastCoherenceEngine)

3. Bayesian Inference and GLS Fitting#

複雑な誤差構造を持つ多次元データのパラメータ推定を行います。

  • GLS (Generalized Least Squares): 各周波数点のビン間に相関(非対角の共分散)がある場合に、統計的に正当な重み付けを行います。

  • MCMC 統合: emcee を用いた事後分布のサンプリングにより、非線形な物理モデルに対しても頑健なフィッティングが可能です。

  • 関連 API: Analysis