物理モデルと解析理論

gwexpy に実装されている、特定の物理現象やハードウェア応答を扱うための高度なモデルについて解説します。

応答関数と結合関数 (Response & Coupling)

励起セグメントの自動検出

インジェクション(スウェプトサインやステップサインなど)を含むデータから、解析に有効な安定区間を自動的に抽出します。スペクトログラム上で特定の周波数バンドのパワーを追跡し、閾値を超えたセグメントを抽出することで、手動での時刻指定を不要にします。

結合関数 (:term:Coupling Function; CF)

バックグラウンドノイズを考慮した結合関数の推定を行います。 ターゲット信号と参照信号(ウィットネス信号)の両方について、インジェクション時とバックグラウンド時のパワーを比較することで、真の結合度を推定します。

\[ \text{CF}(f) = \sqrt{\frac{P_{\text{tgt,inj}}(f) - P_{\text{tgt,bkg}}(f)}{P_{\text{wit,inj}}(f) - P_{\text{wit,bkg}}(f)}} \]

変数

定義

物理的意味

\(f\)

周波数 (Frequency)

解析対象の周波数点

\(P_{\text{tgt,inj}}(f)\)

ターゲット信号パワー(インジェクション時)

加振中のメイン信号のパワー分布

\(P_{\text{tgt,bkg}}(f)\)

ターゲット信号パワー(バックグラウンド時)

無加振時のメイン信号のノイズフロア

\(P_{\text{wit,inj}}(f)\)

ウィットネス信号パワー(インジェクション時)

加振中の参照信号(環境ノイズ源等)のパワー

\(P_{\text{wit,bkg}}(f)\)

ウィットネス信号パワー(バックグラウンド時)

無加振時の参照信号のノイズフロア


組み込みノイズモデル

シミュレーションやフィッティングの初期モデルとして利用可能な、物理的に裏付けられたノイズジェネレーターを提供しています。

1. シューマン共鳴 (:term:Schumann Resonance)

地球-電離層空洞の共振モードに対応する地磁気ノイズをモデル化します。 複数の独立したローレンツプロファイル(Lorentzian)を重畳することで、低周波領域の磁場バックグラウンドを再現します。

2. フォークト関数 (Voigt Profile)

原子物理学や高 Q 値のメカニカル共振で見られる、ガウシアン(ドップラー広がり等)とローレンツィアン(衝突広がり・自然広がり等)が組み合わさったピーク形状を生成します。内部では Faddeeva 関数を用いて効率的かつ正確に計算されます。


高度な解析エンジンとアルゴリズム

1. 独立成分分析・主成分分析 (ICA/PCA)

gwexpy の ICA/PCA 実装は、物理データの特性に合わせて以下の最適化を行っています。

  • 単位分散標準化: アルゴリズムの収束性を高めるため、内部でデータを単位分散に標準化し、演算後に元の物理スケールを復元(再スケーリング)します。

  • 時空メタデータの継承: 統計的に抽出された各成分に対し、入力データが保持していた GPS 時刻規約を自動的に継承させます。

  • 関連 API: 信号処理 (Signal Processing) (ICA, PCA)

2. 高速相関計算エンジン (:term:Bruco)

FastCoherenceEngine は、数千の補助チャネルからターゲット信号への寄与を高速にスキャンするために設計されています。

  • FFT キャッシング: 共通のターゲット信号に対する FFT 計算結果をメモリ内で再利用。

  • 疎行列演算: 相関のないチャネルを早期にスキップし、計算リソースを重要チャネルに集中させます。

  • 関連 API: 時系列 (Time Series) (TimeSeriesDict.scan_coherence)

3. ベイズ推定と GLS フィッティング

複雑な誤差構造を持つ多次元データのパラメータ推定を行います。

  • GLS (Generalized Least Squares): 各周波数点のビン間に相関(非対角の共分散)がある場合に、統計的に正当な重み付けを行います。

  • MCMC 統合: emcee を用いた事後分布のサンプリングにより、非線形な物理モデルに対しても頑健なフィッティングが可能です。

  • 関連 API: ../reference/api/stats

関連ドキュメント